20230930──ペパロニは色合い

・アニメ映画を2本見て充実した日。

・『ミュータント・タートルズ:ミュータント・パニック!』良かった。

・タートルズは何となく知っているぐらいの知識量で見たけどかなり良かった。見ていて、もうホントにこいつらッ!!!って感じにティーンエイジのタートルズが心地良くなっていた。良い映画でもあるが、好きな映画だ。

・もちろん映像と選曲の良さもある。完全にスパイダーバース以後のアニメーションで、ほとんど動くバンドデシネといった奇抜さを昇華してる。全部が落書きのように歪でぐちゃぐちゃしている中、グイグイと動き回る心地よさも唯一無二って感じ。そして選曲は完全にHiphopなのでグっときてしまう。De La Soul、ATCQが好きなだけかもしれないが。

・ストーリーも面白さが定期的に供給されるので飽きずに最後まで見た。タートルズの誕生譚なのでエピソード0感あるけども、スプリンター(親ネズミ)のパターナリズムな立場を反射させて気づかせるといった展開とかもちゃんとしていて良かった。倒すべき悪はいるが、それに従っている人たちは別にそうでもなく素直に反転するのも新鮮だった。

・気になる点があるとすれば「ミュータント」がなんの見立てなのか、という部分だろうな。私は見ていてあんまり気にしていなかったが、社会から疎外されている人たちが居場所を見つけるためには社会に役立つことを証明しなければならない、って物語になってないか?という感想を見かけた。これは確かに部分的にそうで、本来的にはそれはおかしい。なぜなら生きる権利は存在にのみ根拠があり、役立つとかは関係ないからだ。

・とはいえタートルズはミュータントではあるが結構マジで元々が亀(しかも可愛い)なのでこの考えはもはや哲学的な問いでもあるな、と思った。X-MEN的世界観では元々が人だし、そういう見立てとしてのミュータント設定だと言われている。でもタートルズ的世界のミュータントは亀/ネズミ/ハエなんかが人っぽくなっているだけだ。人と似認識できるぐらいには人なんだけど人ではない存在をどう扱うかは難しい部分で、現実だと人工知能なんかでそういう話はされている。

・この場合は何を人として認めるか?という論点ではなくむしろ生き物全般に人と同様の権利がちゃんと保障されるべきでは?まで考えたほうがいい気がする。なぜ人であることが重要視されるかといえば人の特権性を秘密裏に信じているからだ。本当は人の生活の隙間にネズミや亀やハエ、食べられている動物たちがいるわけだけどそんなミクロな命まで同等に扱ってはいられない。人では無い生き物は有害だから、気持ち悪いからといった理由で容易に排除される。タートルズはそんな世界でも亀は生きてるぜ!と主張しているように見え、眼差しそれ自体を把握するようきっかけになるかもしれない。

・ヴィジュアル面にも同様のものがある。本作で描かれるものはおおむね歪んでいて左右非対称、特に人の造形に顕著だ。どんなアニメでもキャラクターは違和感を覚えさせないよう整っていると思うが本作ではむしろ逆だ。人こそが歪で、人でないミュータントたちが歪みの少ない作画にされている。これに意味を見出してもおかしくはないと思う。

・社会から疎外される人がいてはいけないが、その俎上にすら上らない存在がいることも同時に忘れてはならない。そういうメッセージが本作にある‼と声高に言い切れないのはまぁ、深読みだからだ。そういうところを考えて作っている感じはあんまりしない。最終的には人間社会に入れて良かったね、となるし。でも人ではないコミュニティも同時に存続している様子も描かれているので最終的な落としどころはちゃんとしている気がする。

・日本語吹き替えで見たけどオリジナルキャストも豪華なので見たい。ジャッキー・チェンのスプリンターが見た過ぎる。

・なんか適当に書いていたら思ってもないようなことを書いたかもしれない。

・続いて2本目。こっちもアニメ長編『アリスとテレスのまぼろし工場』を見た。なんか凄かった。

・哲学的な設定、美麗な映像、深夜アニメ的なフェティッシュ、青春恋愛が入れ代わり立ち代わりにやってくるので終盤はおなか一杯になった。

・そういう話なんだ?の意外性は抜群だった。予告では隠されている設定が徐々に明らかになっていく感じは広告が上手いのか下手なのか、どっちともつかないが面白く見た。

・タイトルから想像するに分かりそうなものだけどめちゃくちゃ思考実験的な設定だった。ニコマスコス倫理学やってないのでアリストテレス哲学と直接的な連なりがあるのか知らないが、てっ哲学~~~って見ていた思った。よくこんな設定を長編アニメにしたなぁと。

・この映画で問われているのは、もし自分が本当には存在していない幻のような存在だったらどうする?だ。それに対してこれ以上ない回答を出しているのでそこは同意している。まぁそうだよねと。

・そこは置いといて、想像以上の恋愛映画だったので結構キツかった。ついニヤついてしまう心地の良いキツさでもあるだけど、とくに後半で明らかになる恋愛対象にまつわる部分は生理的な無理さが一挙に出てしまったかも。そういう設定にしては湿度が高くないがよくよく考えたらすげーキモイ話じゃん!と素に返ってしまった。

・ここにはアニメーションの微妙な居心地の悪さも加勢している。深夜アニメ的と書いたが全体的にオタク向けの映画だ。たとえば主人公の名前が「正宗」で、ファンタジックな設定にはぴったりな名前だなと感心しつつも、髪が長いけど女子に見られても別にいい、は完全にオタク。

・キスで歯が当たる描写をアニメで見たことない!!!とか「爆発しそう」ってセリフを言うんかい!!!とか声出して言いたくなってしまうポイントがある時点で良い映画なのかも。

・終盤はなんか良い感じのことを主人公たちが言っていた気がするがあんまり覚えていない。ただ、観客の現実と作品内現実のレイヤーを合わせることで直接的な語りかけに力を持たせようとするのは面白いなと思った。あんまり覚えてないけど。

・なぜか主題歌が中島みゆきで、どの年齢層に向けたオタクアニメ映画なんだ?と不思議な気持ちになった。隣席は父子の子供連れ(小学生ぐらい)で、あのキスシーンはさぞ気まずいだろうなと思った。

・二本も映画を見ておなか一杯になったがタートルズの影響でピザを食べた。ペパロニは色合いでしか判別してないので具材の定義は全然知らない。