20230817──そういう映画を多めに見ていただけだった。

・熱はマシになった。38度はない。そのかわり喉の腫れ、鼻詰まりが酷くなった。

・鼻が詰まると集中力が一切なくなるというのはバグのようですごい威力がある。複雑な機構の人間が酸素の入る口がちょっと塞がれた程度でパフォーマンスがガタ落ちする。借りているウエルベックの『滅ぼす』を読もうとしたが頭に情景が思い描け無い。もっと無機質なものなら行けるだろうと踏んで、『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』を読んだ。

・タイトル通りの本で、ナチスのやったことには良いこともある言説を一つずつ取り上げて事実確認、その背景、オリジナル性を問うている。結論からいうと良いことはしていない。

・言われがちな論説を取り上げているわけだけど、本書が書かれるきっかけやその推察も興味深い。その辺は陰謀論者の精神性を分析したものと近しい。まあナチスを悪役にしたくないというのも陰謀論の一種とも言えるかもしれないが。

・すんごいちゃんとしている本で勉強になるし読めば読むほどナチスの所業にうげぇ~~となる。ナチスと言えばアウシュビッツ、ユダヤ人虐殺だ、とイメージが連動して思い浮かぶが知識的にはあんまり持っていなかったなと自覚した。他人よりまぁまぁよく知っている気がしていたが、そういう映画を多めに見ていただけだった。映画の題材は収容所になりがちなので、そこでどういった手順で何が起こっていたかの想像だけは豊かにあるが、ドイツ国内における一般市民に向けて政策なんかはほとんど知らなかった。

・読んでいてタメになるのと同時に、おそらくそもそもの意見を言っている人たちはあまり届か無さそうだなという想像が容易に出来てしまうところに少しばかりの絶望が感じられる。自分の誤りを指摘されて素直に認められるようであれば端からそういった主張はなされないだろうから。

・なんで人はそういうことを信じたり言い始めるのか、って部分はすでに見聞きしていることで新しさはないがこれがそこそこ普及した現代性の一種なのは間違いなさそうなのでげんなりするね。小林製薬ゲンナーリです。

・ナチスは良いこともした!って発言に反対するのは簡単なんだけど撃破するのはなかなか大変だ。そもそもの「良い」とは何かという話をしないといけない気持ちになるし、個別具体的な事例への判例を素人が集めるには困難が伴う。本作は主に後者を専門家がやってくれているので頼もしいことこの上ない。前者に関しては歴史的事実からの解釈、意見形成までの危うさという点で指摘されていた(と思う)のでナチスのみならず歴史を経由する発言や歴史学そのものへのタッチの仕方も学べる。

・何かが良い、と言えるには良さの基準が必要で、何時誰でもどんな風にでも基準を設定しさせすればそれが言えてしまう。なのでそう言えることにあんまり価値はないというか、どういう意味で言っているかいちいち確かめる面倒くささがある。ナチスについてはどの政策の裏側を捲ってみても結局は人種差別や虐殺への舗装でしかなく、良いと言うことは難しい。おそらくかなり部分的にはそれなりに理屈を持って良いと言える行いもあるんだろうけど、それをナチス存在の肯定を含まずに留意してきちんと発言し受け取られることはかなり難しいと思える。

・それでもあえてそう言いたい人がいなくならないので世の中は大変だ。

・岩波ブックレットは初めて読んだかもしれない。というかその存在を今まで知らなかったかも。岩波文庫は当然知っているがブックレットが普通の書店で見かけたこと無いので無いまま生きてきた。