20230826──映画を4本見てマクドを食べて銭湯へ。

・今日は映画をたくさん見た。食事を取らずに水分補給のみで4本鑑賞。疲れたし感想を書くのにも疲れて後半は息切れしている。

・『バービー』、良かった。見る前から感想が盛り上がっていて期を逃した感があったが思っていたより随分とヘンテコな映画で戸惑いながら楽しんだ。バービー世界と現実世界が行き来できる設定をはじめ、劇中でその辺は考えなくてよい!と明言されているがどうしても辻褄を合わせようとするのでそれなりに疲れた。説明めいたセリフが後半にかけて多くなる上に展開、映像ともに情報量がぐっと増えるので咀嚼できていない部分も多い気がする。

・まずはコメディとして普通に笑えるのがよかった。笑いの手法がかなり詰め込まれていてなんなら全部あるかも。第4の壁も超えるし『ジャスティス・リーグ ザック・スナイダーカット』のいじりが一番笑ったかもしれない。ライアン・ゴズリングもマーゴット・ロビーも、シム・リウも良いキャスティングだなと思った。ポップに馬鹿馬鹿しく現実(男)社会を皮肉たっぷりにダークさを忍ばせて描くことに成功していて、その規模感がまず凄い。

・マテル社も登場してそこまで言うんだと驚きがあったが、行き過ぎたノリツッコミという感じがあり、安易な自己批判のようにも映ってあまり好きにはなれなかったかな。これは私の性格が悪いので、ここまで言っちゃうの凄くないっすか?的なニュアンスをかぎ取ってしまうせいだと思う。自己批判には正しい部分もあるが廃番バービーの扱いなどがトイストーリー的に消化されきれず、デフォルメも強いので有耶無耶に感じた。

・ラストの解釈は前もって情報が入っていたせいで身構えが発生してた。おそらく何も知らなかったら妊娠エンドだと捉える可能性はあるなと思った。ただし、アイデンティティ獲得の話が出てきて他者が否応なし必要になる妊娠で終わるのは変だなーとも思うのでその解釈では強い違和感が残ってしまう。少なくとも自分はそうだった。とはいえ妊娠だと捉えてしまういくつかの理由はスッと出る。

・ひとつは単なる知識不足だ。たぶん男性のほとんどは婦人科と産婦人科の違いを知らないし口語で発したことがないと思う。というか産婦人科は知っていても婦人科は知らないだろう。これは端的に自分が関与しにくい分野の解像度は荒くなるっていうやつで、知っとけやと言われれば頷くしかないが機会が無いのも事実だ。その知っとけやもヘテロセクシャル的恋愛観から来てそうなのもの気になりつつ、私も今回の件で婦人科と産婦人科の区別を認識したぐらいなので強く言えない。これに限らず病院関係だと自分はかからないので心療内科と精神科の違いをよく分かっていないとかもある。ブリとハマチがどっちがどっちなのかもよく分かってない。

・もうひとつが劇中でバービーが自分の生みの親と対面する場面がある。その背景がなんともスピリチュアルで抽象的なもやもやとした映像なのでちょっと生命の誕生めいた印象を受けるからだと思う。正直ここでの会話はあんまり覚えてないのだけど、彼女を創造主だとするとそういう薫陶を受けて急に妊娠しててもおかしくないよな~と思えてしまう。あとアメリカ映画なのでキリスト教の処女懐胎みたいなものの知識があると結びつきやすいのかもしれない。ただ宗教的な色合いは全編にあんまりないのでは急ではある。

・ハイヒールからビルケンシュトックに履き替えるのも人形から人間へという意味合いなんだろうけど妊婦になったとも読めてしまう。これらがあって「人形から人間になる」って結末の骨子はそのままに非常に人間らしい「妊娠」が来てもめちゃくちゃ変ではない。なにせずっと変な映画なので。

・また最初からずっとバービーとケンの恋愛物語とも見えるので、そういうものが積み重なって妊娠エンドだと解釈してしまう理由にはなる。ただ、そうだとしてもやっぱり過剰な深読みと多少の誤読だなーという感じがするので普通に身体も人間になったという終わりが適切だと思う。わざわざ女性は母親になるのだ、という押し付けで終わるよりはずっと希望的だし。

・とまあラストを含め感想は長々と書けてしまう。他人の感想を調べると、結構読むのが大変なぐらい色々書かれているものが多い。個人的にはもっと素朴に見たらええのになと思うが、こうやって感想を多岐にわたって書けてしまうのが作品の力なんだろうなって気がする。

・たしかにフェミニズムの物語ではあるがあくまで男女のジェンダーに関する側面が強いし、それをあえて理想だと全肯定していないのが皮肉な映画だと思う。たとえば劇中で「フェミニズム」が進行したバービーランドはユートピアっぽく描かれているが、実質はディストピアだ。男社会の悪しき現実が「フェミニズム」でユートピアになるのではなく悪しき現実のもう一つのパターンでしかない。ここでは「フェミニズム」が万能の薬じゃないことに自覚的っぽく、現実の写し鏡として使われている。

・ここではただ「フェミニズム」が無効と言っているわけでなく、単なる男女の逆転では意味がないと言っているわけだ。この手の素直に観客をノラせない部分がちょいちょいあって、その辺は作家性か意図か迷走かは分からない。

・そのひとつが民主主義を無視した行動で解決されてしまう部分にもある。これさえも現実の写し鏡なんだろうが素直でないので引っかかりが残らざるを得ない。アメリカ映画であれば議会襲撃事件が前提にある気がするし(壁を建設使用する流れもあってドナルド・トランプ的なものへの皮肉はあるにはあるが意外に少ない)、政治的な場所から性別を理由に追い出されるというのは現実にある/あったことだ。ただ先進国はおおむね投票の平等性は確保されているためそれまでの観客にとっての現実の反転とは多少違ってしまっている。なので違和感が残り、素直にバービーたちの勝利に喜べない作りになっている。

・なんでそうするかというと『君たちはどう生きるか』的なメッセージのためだろう。あの映画を見てからそのタイトルが便利すぎて何でもかんでも使ってしまう癖がついている。個人が個人として生きたいように生きる、人として生きるということをラストに置いているわけで単純な男社会の逆転だけではディストピアだし、ユートピアは存在しない。そのためにとりあえずは現実は男社会でアホっぽく馬鹿であることを見据えて生きるしかねぇ~~~ってことだ。よくよく考えたら、それはそれでどうしようもなくて悲しいかもしれないがリアルではある。

・基本的にアメリカ文化の映画だし全部が全部わかり切れてない。また大衆娯楽映画として細かい部分の話はしにくいので結局は白人異性愛者の大きなマジョリティ的な話でしかない、とも言える。普通にトランスジェンダーがバービーとして登場しているといった部分はあれどLGBTQ的な側面はほぼ無い。そういうところは置いておいてまずは大きな話をしよう、現実社会を違う目線で見てみようといった試みの映画でそれに成功している。見た人はまんまと感想を長々書いているのもその証拠だ。ジェンダー的な先入観を取っ払う手法としてよくあるやつだけど、それをこの規模でやっているのがまあ凄いなと思う。

・感想がその人の価値観を反映していることを今年一番証明している映画だろうな。

・有害な男性性、家父長制への批判も部分的にはあるんだろうけどコメディとしてデフォルメされたネタになっているのでもっと意地悪でいいのにね。

・『キングダム2 遥かなる大地へ』を家で見てから『キングダム 運命の炎』を見た。結構疲れた。

・直前に『バービー』を見ていたのでケン同士の戦いが馬鹿っぽい戦争だった余韻が効いた。原作は読んでいるけどほとんど忘れているので見ながら思い出していた。映画の規模が大きいんだか小さいんだか不思議な感触だった。戦闘シーンはもちろん馬がたくさん出て派手なのだけど、荒野でワーワーやっているのが徐々に疲れてくる。これは漫画でも同じかもしれない。時間が長いのもそうだけれど、実写になるとリスキーすぎる戦術にあまり説得力を感じられなくて実写化は大変だなーと思った。

・合戦は派手だが飽きる、というのはそれなりにあって明確に倒すべき個別の敵がいた1作目が一番好きかもしれない。なぜ勝ったか?という理屈がアクション上に存在していてすごく納得した記憶がある。本作もなぜ勝ったか?までの説明がやけに丁寧で分かりやすいのはいいのだけど、さすがに無理では?みたいな場面が続いていた。基本的にはさすがに無理では?に説得力を持たすことに全力な実写化シリーズだと言えて、きちんとそれには応えているのは偉いと思う。

・それでも一番テンションが上がったのが李白のキャスティングだったのはちょっともったいないかもしれない。原作のストックはたくさんあるので映画化も続くようだけど規模と製作期間なんかを考えると途轍もないシリーズを始めているなと思わざるを得ない。

・『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』、疲れた!

・クローネンバーグは全然見てなくてたぶん初見。ストーリーはそんなに難しいはずじゃないんだけど、謎の機械や装置の情報を処理するのにかなりエネルギーを使った。

・各種の設定には『バービー』のように現実世界の鏡のような部分があるんだけどもはや疲れていたので全然ぴんと来ないまま見ていた。ヴィゴ・モーテンセンがずっと咳している印象が強く残った。あとめっちゃ変な椅子な。

・世界から痛みや病気が消えるとこうなるって大喜利として面白い部分はありつつも、もっと変でもいいのにとも思った。疲れた脳にはキャリアのある御大が好きに映画が作れてええですね、と思う部分が多かった。

・『リバー、流れないでよ』、良かった。ひさびさに映画館で観客が良い感じに笑う雰囲気を味わった。みんなでわっはっはとなったのは『カメラを止めるな!』以来だと思う。

・面白かったし良かったのだけど作り手が演劇畑なので、全体的にそういう部分を映画館で見るのはやっぱり違和感を持ってしまった。演劇をほとんど見たことないのに演劇っぽさがわかるのも不思議だけど。

・2分近いループを毎回ノーカットで撮って見せるのは挑戦ではありつつ、毎回2分を見ること自体はあまり心地よくはない。ループものが面白いのは編集があるからなんだなと気づいたりした。階段を何度も上がるのはじれったさを感じるが、それが時間に縛られる映画って娯楽の醍醐味なのかもしれない。そうならば逆に映画らしい映画だといえる。

・ラストの種明かしもそういうのでいいんだよ的精神で見たし、微笑ましさを見守って笑うみたいな感じはある。群像劇だけどメインで描かれる二人組のやり取りなんかは微笑ましさ全開だった。ゴールデンタイムのテレビ番組で笑うのにやや似ていてちょっとだけ予定調和というか変な安心感があった。

・映画を4本見てマクドを食べて銭湯へ。近くで花火大会をやっているらしく露天風呂で打ち上げ花火の音を聞いた。